##■水道産業新聞社説/2009年11月30日
事業仕分け『納得出来ない評価』
来年度予算要求の無駄を洗い出す行政刷新会議の「事業仕分け」の前半作業が終わった。その結果、「廃止」や「来年度の計上見送り」とされたのは46事業、計1500億円。公益法人が持つ基金の返納や「予算の削減」を加えると1兆円規模の財源を確保できる見通しという。
厚労省の水道施設整備事業と国交省の下水道事業も対象とされ、水道事業は格差是正や耐震化補助の必要性は認めつつも補助金のあり方を改善し、「10〜20%予算要求の縮減を行う」との結論が下された。また、下水道事業の仕分けでは、国から地方自治体に財源を移した上で「実施は各自治体の判断に任せる」という評価が示された。
この評価を我々は納得できない。民主党政権が何より問われているのは、国民の「安全」と「安心」に対する姿勢なはずだ。ムダな事業や優先度の低い政策を洗い出すというのなら、その作業に求められるのは、何がムダか、何が優先度が高いかを設定する基準と見識といえる。公共事業を十把一からげに否定するのではなく、公共事業の中で、国民が求めている真に必要な事業は何なのかを選別する認識と理解だ。
今回の仕分け作業にあたったのは民主党の国会議員7人のほか、自治体職員、エコノミストら民間の有識者56名という。
「仕分け」に必要なのは、「費用に見合う効果があるのか」「財政が苦しい中で今やる必要があるのか」といった観点からの議論だが、事業仕分けの中で、そのような十分な議論が行われたとは言い難い。「短時間の議論で結論を出すのは乱暴だ」「仕分け人はあまりにも現場を知らなすぎる」との批判もうなずける。
そのことを端的に示したのが下水道をめぐる議論だ。仕分け人からは、「地方自治体に任せる方が少ない予算で効率的に整備できる」「より低いコストで整備できる合併処理浄化槽にシフトすべき」などの意見が出された。この結果導き出されたのが、下水道事業は国から地方自治体に財源を移した上で「実施は各自治体の判断に任せる」という結論だった。
一方、環境省の「合併浄化槽整備」は、複数の仕分け人から「地方移管すべし」との意見が出されたが、結論は補助制度は維持し「10%縮減」に止まった。農業集落排水事業も「地方移管」とされたことを考えれば、著しくバランスを欠く評価と言わざるを得ない。
「地方に財源を移譲する」という結論そのものも納得がいくものではない。「仕分け人」たちは、下水道の補助金が現金としてあり、簡単に移行できると考えているようだ。だがその財源は建設国債だ。東京都の石原慎太郎知事は、下水道の「地方移管」に素早く反応し、「お金のかかる事業だから国が日本全体の問題として経済援助をしてきた。事業だけを地方に任すことになりかねない」と危機感をあらわにした。
そもそも「仕分け」は、「子ども手当」や「高速道路の無料化」など、民主党のマニフェストの実現に必要な予算をひねり出すのが目的だ。しかし最新の朝日新聞の世論調査では、民主党がマニフェストに掲げた政策は「必ず実現すべきだ」との回答は16%に止まり、「柔軟に見直してもよい」が77%と圧倒的に多数だった。マニフェスト実現に突き進むことが民意とは言えまい。
仕分けの結果を丸呑みして来年度予算に反映させることになれば、世論の好感は新政権への大きな失望に変わるだろう。