講演1:家庭用品と下水道
下水道は,公共用水域の水質の保全に資することを目的の一つとしている。
生活様式の変化等により,これまでほとんど家庭下水に含まれていなかった物質が,突然大量に下水道に排出される可能性があり,下水管きょ等の損傷,下水処理システムへの悪影響,処理水放流先での傷害の原因となることが否定できないが,未解明なことが非常に多い。
平成元年,2年度に実施された建設省(当時)の調査によれば,風呂洗浄剤,除菌クリーナー等は,当時の使用量の範囲では問題なかったが,非常に多く使われた場合や使用方法が適正でなかった場合に下水道への影響が懸念され、継続的な基礎調査の必要性が指摘された。
内分泌作用をかく乱すると疑われている内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)に関しては,環境庁(当時)が1998年にSPEED'98を公表した。その後の種々の調査・研究により,内分泌かく乱化学物質の中にはわが国の環境中に広く存在するものがあることが明らかになってきている。
平成13年3月の国交省の調査では,内分泌かく乱物質の多くは,下水処理場における生物処理により90%以上減少しており,高度処理を行えば殆ど検出されないレベルまで低減していた。
一方、下水汚泥の緑農地利用が進んでいるが,下水汚泥リサイクル製品中の内分泌かく乱物質の環境中での挙動等、未解明な部分が多い。
土木研究所では,下水汚泥コンポストを施用した土壌を充填したライシメーターを用い、内分泌かく乱物質の浸出水への流出量と土壌中の残留量の長期試験を行った。2年10ヶ月間で浸出水として13%流出し,土壌中における減少機構も推定された。
下水道は,入ってくる下水の量・質を制限できないため,その監視方法,制御方法の確立,継続的な調査が必要であり,家庭内においては節度ある利用が求められる。
南山瑞彦氏:国土技術政策総合研究所下水処理研究室長
国土交通省で下水道事業に従事。旧土木研究所より高度処理,汚泥処理,有効利用等の研究を手がける。