総合討議
(佐藤)
・ 1980年に始まる総量規制は,第5次までは前回にプラスした目標が上げられていたが,第6次(2005年開始)で初めて,「瀬戸内海を大阪湾に限定する」という対象の削減が行われた。2講師による講演と総量規制の経緯を踏まえ,総合討議への話題の提案を行う。
1.瀬戸内海は本当にきれいになっているのか
2.瀬戸内海の水質保全目標について・・・自然環境保全、観光(水浴)という観点から,-白砂青松は遠い過去の話か-,水産という観点から
3.目標を達成する手段として,面源負荷対策のコストとスピードは?,直接対策(浚渫など)の効果は?,N,P以外の栄養塩は?
4.水質対策以外の保全策,砂浜・干潟・藻場の復活,
5.水質評価指標の問題,現行CODは使えるのか?
・ 「瀬戸内海は本当にきれいになっているのか」を皮切りに進めたい
(浮田)
・ 相対的に見れば,確かにきれいになった。「これでいいのか?」については人によると思う。
・ 最近は海での遊びを行わないので「泳ぐ」楽しみの人とは感じが違うかもしれない。肉よりは魚を良く食べるので,「魚」が今の自分に一番感じるポイントとなる。漁猟師の話を聞くと,年々取れなくなっているし,後継者もいないという。水産の危機は確かにあり,これではいけないと思う。
・ ただし,ノリのに栄養ということでがあれば,必要なときに必要なだけの添加があればよく,全体を富栄養にする必要はない。
(質問1)
・ 漁獲量が減っているというデータは瀬戸内海全体か,山口湾だけなのか。兵庫県の海をみると昔より汚くなっているが,そこでの漁獲量はどうなのか?
(浮田)
・ データは瀬戸内海全体のもの。
(質問2)
・ 瀬戸内は,化学工業が盛んだと習った。近年では豊島のゴミ問題もある。水質が良くなったと言っているがCODMnでは測定できていない汚れがあるのではないか。
・ 漁獲量のピークは1985年と出ていたが,時期的にバブル期であり,この時期以前に上流地域の開発が進められていあっれたはず。その数年間でCODMnにカウントされない汚れや有害化学物質の影響があるのではないのか。
・ バルト海や地中海の例が出ていたが,バルト海には旧ソの原子力船の沈没など「死の海」と言われているし,地中海の周辺は砂漠が多いなど,日本の内海と同じに考えるのはできないのではないか。
(浮田)
・ 有害化学物質の影響もあるだろうが,個人的には,それは致命的な要因とは考えられない。さらに現在はPRTRなどの形での取り組みも進められている。また,CODだが,数値そのものより内訳が重要と言ってきており,発生源での内容も見てきている。CODにカウントされない汚れのことが直接の原因ではないと思う。
・ 漁獲量の減少には,上流域の開発の方法や,乱獲,食生活自体の贅沢さなど,有機物汚濁に直結というのではなく,広い意味での住人の活動に要因があると思う。
・ さらに,ここ10年くらいについては,温暖化の影響が出ているように感じる。植物プランクトンの種が変わり,食物連鎖にうまくのらないなどがあるのでんどえはないか。温暖化の影響がどんな形で現れるか,真剣に考えていくべき時期。
(藤木)
・ 漁獲量の変化を,すぐに海洋汚染に結びつけるのは早計。水産というのは産業であり,需要と供給の関係によっている。海外産との価格競争などで「採らない」ことを選んでいることもある。
・ 食料の海外輸出は,バーチャルウォーターの輸出ともいわれる。同時に,バーチャルポリューションの輸出でもあると思う。漁獲高だけで論じるべきではない。
・ CODMnに関しては,カウントされない物質ウンヌネンではなく,様々な場面での国際比較ができないということが一番困ること。
・ バルト海の話題は,日本の内海との比較の為に挙げたものではない。国際的協調の取り組みであるということ,そこで開発したモデルを海外に輸出しようと狙っているらしいことを,日本でも考えるべきだという提議である。日本でも,日本海の高精度の流動モデルを研究しているのだし,近海モデルを開発して,中国,韓国などアジアとの協働を働きかけるべきだと思っている。
(質問3)
・ 様々な比較(変遷)であるが,30年前からではなく,60年前からにすべきだと思う。S20年ごろからの流れで見ると,1985年がピークではなく,それが異常上昇の結果だと思うのではないか。水質も漁獲も60年前からで論じてほしい。
(佐藤)
・ S20年ごろにつういてはデータがなく,変遷をみるためのデータが整っているのがS40年ごろからというのが現実問題としてある。
・ 数少ないデータで,1950年頃,1980年頃,1995年頃の,NH4-N+NO3-Nと,PO4-Pの度数分布の図がある。窒素,りんとも,1950年頃は低い。しかし,魚がいなかったわけではない。
(質問4)
・ S20年ごろと比較するというのはムリ。敗戦で殆どの活動がない。工場も停止,食料もない。S15年頃,18年頃がどうであったかはデータもない。
・ 日本近海のプランクトンのデータは考えさせられる。水質シミュレーションにおいては,外洋の水質はきれいなものとして行ってきたのが使えないということがはっきりした。光化学スモッグなども,中国など海外からという話もある。国際的な移動を含めなければならない。
(浮田)
・ 山口湾についていうと,子供の頃は「宝の海」という感じだった。現在,飽食の時代であり,食べ過ぎ(需要大),採り過ぎの他,漁業技術の進歩もある。魚影を確認してピンポイントで全部を捕獲することも可能となっている。水質以外の要素も様々。
(質問5)
・ 以前から提案していることだが,栄養塩の季節変動の考慮と,ケイ素や鉄分の不足を考慮した対応にできないかということ。例えば,東京湾の南部は秋になると結構きれいであり,東京湾の最大の問題は青潮。観光客(水浴)は,夏の水質しか見ない。春から夏に掛けては水質規制を厳しく,秋以降はゆるくという対策にはできないか。排水管理者も,年間の1/3の期間だけ厳しい管理というのであれば,ランニングコストを要する対策をとりやすくなるのではないか。
(浮田)
・ いい提案だと思う。なぜ,夏の富栄養化が悪化するのか,という解析を踏まえてのきめ細かな対応という考えはいいと思う。
(藤木)
・ 勉強の材料としては非常に面白い。一律の規制等ではなく,対象水域を考えてコントロールするという新しいコンセプト。
(質問6)
・ 経済競争原理を踏まえ,国際的な比較指標のデータがないこと,日本の技術をアジアへ輸出ということに関して,国土交通省としてのご意見を伺いたいが。
(藤木)
・ 水質保全(改善)は,環境省の施策が一番重いだろう。ある省の一つの部だけがまったく別のことを,というのは難しい。だからといって,EUで行っている良いことは取り入れる工夫も重要で,国内行政を再考することも一つだと思う。
・ 「気がつけば全てEU基準」と言われることもある。例えば,食品の規制もEUが厳しいため,より規制されたものがEUへ輸出され,基準のゆるい日本へは2番手3番手を輸出しているという現実もある。EUだけにとどまらず,関連する諸外国へも影響している。
・ 国内行政的にも,最終は世論で流れを作るべき。この流れを行政の旗振りによるプロバダンスというのは難しい。
・ EUにおいても,EU裁判に提訴してまで,など,相当激しい運動が行われている。それでも,「高い目標を掲げてやっている」というポリシーがある。USAもブッシュ政権で環境保全が後回しにされているが,高い理念はあるし,それに誇りを持っている。
(質問7)
・ 栄養塩類について,生活排水が大きいので,やはり下水がポイントだと思う。しかし,高度処理などの進捗が遅い。もっとという国民運動や,もっと安価に,など出来ないのだろうか。
(浮田)
・ 水を汚したら元本の水に戻すということが人間の義務,水は人間のためだけではない,という気持ちは大事。瀬戸内海の水質についてこれ以上の規制を掛けずに様子を見てはどうか,という立場とは矛盾するのだが,気持ちを持ち続けることは必要。
・ 汚泥も忘れてはならない。現在,セメント資源化されている汚泥が増えているが,リサイクルしていることに満足していはダメ。大事な成分を大地に戻す,という努力を続けていかなければならない。
(藤木)
・ 国民運動へというのは大事。もともと環境に興味がある人だけ,というのではなく,皆が関心を持つ,水に興味を持つという風に持っていけたらよい。なおかつ,経済発展も,という方向性がきっとあるはず。
・ ボストン湾は20年前までひどい状況だった。水質改善だけではなく,町並みも含め,都市全体としてきれいになった。日本では全体が語られていない。瀬戸内海でどんなに努力されてきたか,その成果を知られるようになってほしい。
(佐藤)
・なお議論はあると思うが時間となってしまった。国民の皆が求める水環境ということを見据えて、下水の高度処理のこれからを考えていくのであろう。本日の講演、討議でそのことを再確認できたということで大変有意義であったと思う。