「統合的水資源管理技術と膜処理水循環利用―シンガポール(PUB)と米国(OCWD)のチャレンジ」
高知工科大学大学院工学研究科 村上雅博教授
シンガポールと米国で膜が具体的にどのように使われているかを紹介する。両方とも水資源の越境問題(カリフォルニア州←コロラド州、シンガポール←マレーシア)を抱えている。
・ 米国OCWD
カリフォルニア州オレンジ郡水地区(Orange County Water District)では、下水処理水の地下水涵養が行われ、そこに膜処理技術が適用されている。世界的に見てもカリフォルニア州の様な半乾燥地域では、地下水が主たる水資源となっている。1974年に建設されたWater Factory 21 では下水処理水を膜処理(MF+RO)したものを地下注入している。これは地下水に海水が浸入してくるのを防止する役割も果たしている。現在、236,000m3/日の膜処理水を注入しているが、将来はこの量を倍化する予定である。このOCWDでは、ほぼ同量の水量が河川水から導水され、浸透池を通して地下水涵養することも並行して行われている。遠隔地からの河川水導水、海水淡水化に比べ、下水処理水の膜処理地下注入は比較的低いエネルギー(1.12kWh/m3)で、安定的でもあるという特性が認められている。
図−3 OCWDの処理・利用フロー
・ シンガポールPUB
シンガポールの環境水資源省(Ministry for the Environment and Water Resources)公共サービス局(Public Utility Board)では、水資源の安定化を目的として、海水の淡水化、下水の再利用を実施している。シンガポールの水道水使用量は、120〜130万m3/日であるが、このうち半量を隣国のマレーシアから送水している。PUBでは NEWater Centre を建設し、下水処理水をUF+RO処理し水道水源の一部に充てている。2005年では8万m3/日そして次の段階から24万m3/日の下水処理水を膜処理し(これをNEWaterと称す。)、工業用水に利用する他、間接的な飲用利用のために一度Bedok貯水池にポンプアップ(貯水量の1%程度の水量)して表流水系とミックスし、それを浄水処理した後に上水として給水している。PUBでは、他に海水の淡水化事業に加え、都市の雨水排水を飲み水にする事業にも取り組んでいる。Tanpines河口湖の取り組みが代表的で、雨季(スコール)には河口湖に集水された濁度の高い都市雨水排水をMFで処理し飲料水化する。乾季には河口湖の汽水、海水を対象としてMFで除濁した後にROを用いて脱塩化し飲料水化する。4,500 m3/日のパイロット施設が完成している。この膜処理システムの最大の特徴はMFとMOを異なる水質条件の原水にフレキシブルに対応させて運転することにより平均的な単位電力消費量を3.5kWh/ m3から1.7 kWh/ m3へと半減させることに成功している点にある。施設の一部の膜には日本のメーカーのものが使用されている。
図−4 Bedok Reservoir