放流先を考えた下水処理             NPO21世紀水倶楽部2011/02/24
                            古賀みな子
 私はつい3年前に大牟田市を退職しましたが、本日お話しするのは退職前に少し力を入れて取り組んでまいりました海苔漁業と下水道についてのお話です。下水道事業を新たに始めようとするときは漁民の方の大きな反対運動に会います。大牟田市は、全国の生産量の4割、出荷額にして5割を超える海苔漁業を擁する有明海に面しており、大牟田で下水道をするには海苔漁業との共存がどうしても必要となってきます。
 有明海は干満が大きく、干潟の面積は全国の干潟の4分の1を占め、ムツゴロウなどの干潟に固有な生物が多種棲んでいます。また、この湾では海苔漁業が盛んです。大牟田市の処理場の地先は図−1に示すように海苔養殖の場となっています。夏場はウインドサーフィン等海遊びを楽しむ人達、冬場は海苔養殖の場になりますで、夏場、冬場の環境を踏まえた水処理技術の構築が必要と考えました。海苔漁業者からは、新しい処理場の処理開始(平成12年)に対して、塩分低下を起こす真水は要らないなどの話があり、市は施設建設前から稼働後までの10年間(平成8年〜17年)潮流調査を行いました。また、下水処理水に含まれる窒素、りんの栄養塩が海苔養殖に本当に有用となるのかという観点から調査を行いました。
 潮流調査からは処理場の稼動前後でそれほど変わらないという結果を得ました。塩分濃度は干潮の時刻で河口近い表層で若干低下しますが、水深1m以下では変わらないという結果を得ています。有明水産試験所では過去40年に近い水質データがとられていますが、近年、窒素(溶存態無機窒素、DIN)の濃度は低下しているというデータが示されています(図―2)。この解釈として、水質汚濁防止法の施行による産業排水の負荷の減少、食料・農業・農村基本法の施行(1999年)による化学肥料から有機肥料への転換などにより、流域からの窒素負荷が減少してきたのではないかと考えられます。流入河川の窒素濃度もそういった状況を反映する経年変化となっています。
 現地の海水に処理水を添加して海苔の生長をみる実験を行うと、生長も早くなり、また味もよくなるという結果を得ました。有明海の流域4県(福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県)の海苔出荷量は約45億枚(H16年度)、これは約910トンの窒素を海苔として有明海から取り上げたことになります。因みに下水処理場から海苔シーズンに排出される窒素負荷(4県+大分県:大分県は有明海に面していないが河川による流入)は上記の窒素量に対し約4.4%という関係となっています。
 以上のことから、大牟田市では図−3に示すような海苔養殖を考えた下水処理運転を行なうこととし、冬場は窒素分を多く残し、夏場は10mg/L程度に落とすといった方法で既に7年の運転を行なっています。
  
 

図-1
図−2 
 図−3