排水管更新の現状と事例~マンション排水設備の資産区分(共有部と専有部)、マンション標準管理規約改正の活用法、更新の具体事例など~
            株式会社翔設計 改築コンサルタント部 梅津いづみ氏 
1.住まいの中の設備と設備における資産区分の概念
(1) 住まいの中の設備
 ここでは、住まいの中の設備から排水管に注目し、排水管、給水管・給湯管が定義され、ポイントとして、給水管・給湯管・排水管はどこを通っているかについて説明がなされる。
 給水管・給湯管・排水管は、部屋の中の床、壁の中に通されている。 床、壁の中なので、普段は見ることが出来ず、内装材を剥がさなければ見ることが出来ない。 場合によっては、自宅外となる下階の天井内を通しているケースもある。
 次に、配管材料の変遷として、対象となる排水管と継手の竣工年別ゾーン図、給水管と継手の竣工別ゾーン図が示され、老朽化の対象として考えられるのは金属配管で、特に1980年~1995年の施工年別検討ゾーンに焦点が充てられる。
(2) 設備における資産区分の概念
 マンションの資産区分については、複数の人が共同で所有してるため、みんなで協力し合って維持管理・保全を行っていく必要がある範囲を共用部とし、住民が個人で維持管理・保全を行っていく必要がある範囲を専有部として定義付けることが一般的である。
 ただし、マンションで使用されている設備は、共用部として取り扱われる設備から専有部として取り扱われる設備に枝分かれていく「構造上一体となったシステム」を構築しているため、マンション特性や、計画内容により共用部だけでなく専有部までを一時的に「共用部とみなして」計画立案から実行までを行うケースが多くあるのが設備改修の特徴でもある。
(3) 設備における資産区分の概念
ここでは、排水管にハイライトを充て2つの異なるケースが説明される。
① 共用排水立管および立管などのパイプシャフト貫通部から1m範囲の専有部排水管は、火災時の延焼や煙が広がることを防止するため、燃えにくい配管材料である必要があり、概ね立管と同じ材料で配管されている。 防災上の観点や、共用部排水立管と同程度の劣化状況および配管接続上の都合から、共用部・専有部の配管更新を一体的に修繕(更新)する必要が出るケースがある。
② 下階天井内を通る配管は、管理規約上「専有部」と明記されるが、実態として個人判断で下階天井内の配管更新ができないことから、共用部とみなして工事範囲とする傾向が強い。( H12.03.12 最高裁判例参照)

2. 建物寿命と排水設備改修方法の比較
(1) 建物寿命と排水設備改修方法の比較
① 更新工事、更生工事について、改修内容、メリット、デメリット、保証期間、入室工事期間、耐用年数を比較するが、工事費、期間、耐用年数の比較が大事である。
② 建築寿命の考え方
建物寿命は法定償却が60年と詠われていたことから建物寿命60年という認識が浸透しているが、大別すると3つの寿命が存在する。
    {経済的寿命 築35~60年程度}
市場性の視点や経済的に市場性を有する期間を寿命とする。 (適用例:不動産としての価値)
{期待寿命 築60~100年程度}
建物や設備の機能低下時に修繕費用不足が生じ、修繕不能となる時期を寿命とする。(適用例:住居としての通常求められる機能性)
{物理的寿命 築100年以上}
建物本体の物理的劣化を迎えた時期を寿命とする。(適用例:倒壊の可能性がある)
建築寿命の目標設定では、設備修繕工事の累計額の面からも検討する必要がある。目標年から逆算して「更新」「更生」「更生+更新(更生)」の中から最も合理的な方針を設定することも重要となる。

3. マンション標準管理規約
(1)2021年6月「マンション標準管理規約」の改正
改正の概要:以下の事項等について、必要な規定が整備されている。
① ITを活用した総会・理事会について
② 置き配を認める際の留意事項について
③ 専有部分配管の工事を共用部分配管と一体的に行う際の 修繕積立金からの工事費の拠出について
専有部分配管
 共用部分と専有部分の配管を一体的に工事する場合に、修繕積立金から工事費を拠出するときの取扱いを記載(第21条関係コメント)
 今までも標準管理規約上、行為は認められていましたが、費用はあくまでも 個人負担が推奨され、共用排水立管更新時の壁となっていた。
(2)マンション標準管理規約(単棟型)何が変わったのかについて比較
改定前と改定後についての内容が紹介され、改定後の大事な内容は、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である。
(3)長期修繕計画の設備改修は共用部だけでなく専有部も含めた計画にすることが可能
 長期修繕計画に共用部の給排水設備の改修計画を盛り込む
◎管種や数量、計画している改修の方法、費用などが適正である
◎定期的に長期修繕計画の見直しを実施し、資金計画が破綻していない
◎改修予定時期の前に調査をして、劣化状況に応じた実行を計画する
 実は、高経年マンションでは、専有部の配管全般に渡る問題やトラブルが多く発生している。専有部配管からの漏水で下階住戸や共用部に被害が生じてしまった場合
① 個人賠償保険もしくはマンション総合保険の特約で対応
② 原因が経年劣化の場合は保険の補償対象外の場合がある
③  漏水発生が多発→保険料UPや更新できない等、全体の不利益 「マンション標準管理規約」改正
(4)ここまでのまとめ
配管の不具合 → 全体の不利益 → 資産価値DOWN
専有部配管についても共用部分と一体として扱って、修繕積立金を使って組合全体でまとめて改修工事を実施することが合理的かつ経済的という説明はつけられるものの、管理規約による制限を超えることになっていた。
これまでの課題は、修繕積立金は専有部とされる工事に使えない、リフォーム済み住
宅はどうする等であったが、ようやく国土交通省が動き、マンション標準管理規約コメント改正、専有部配管の改修工事も組合負担で実施が出来る下地が出来上がった。
(5)長期修繕計画の設備改修は共用部だけでなく専有部も含めた計画にする
  {利点}
① 漏水事故リスクが一気に下がる → 保険料割引が期待できる
② まとめて改修することで費用軽減
③ 専有部の設備工事であっても共用部リフォーム融資(住宅金融支援機構)等、 一般的な個人借入よりも有利な条件で借り入れ可能
④ 専有部配管改修工事の品質確保
⑤ マンション全体の健全な長寿命化 →「選ばれるマンション」「生き残るマンション」「資産価値維持」
  {注意点}
① 共用部だけでなく専有部も含め、まとめることが合理的であること
② 付帯工事は、原状復帰or現状復帰、どちらで計画するか
原状復帰:新築時同等の仕様。条件が各戸で
現状復帰:工事直前の仕様。住戸によってグレードや費用がまちまち。
③ 隠ぺい配管or露出配管、どちらで計画するか(給水・給湯のみ)
④ 改修工事実行の際は、居住者の生活負担を考えた工夫が望まれる
給排水制限や住戸内工事がなるべく日常生活の負担にならないように 配慮した工
事計画が望まれる。
{ポイント}
  長期修繕計画
◎排水設備改修は共用部だけでなく専有部の附帯工事も含めた費用を見込む
◎専有部配管更新工事とその付帯工事の費用も見込む
規約等
◎規約に設備改修は専有部も含め修繕積立金で実施する旨を記載する
(ただし、改修工事後の維持管理は原則として区分所有者)
◎先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても記載する
◎専有部リフォームの規定に給排水設備に係る事項も記載する
(6)「マンション標準管理規約」の改正
ここでは、パターンA、区分所有者に委ねる場合、パターンB、共有部扱いとして工事する場合の、管理組合、区分所有者のメリット、デメリットについて整理される。

4.設備改修の最新動向と実例紹介
(1)翔設計の事例1
① マンションストック長寿命化等モデル事業(国土交通省)  令和3年度・工事支援型にて採択であり、専有部分を含む給排水管・給湯管の同時・オール樹脂化によるライフサイクルの低減を目指した改修工事。
評価ポイント1 オール樹脂化
評価ポイント2 直結増圧方式(高層棟は多段型)
評価ポイント3 合意形成に関するきめ細かい対応、工程計画の工夫として住民の負担軽減
② 工事方針について
   マンション内の給湯管からの漏水事故が増加傾向を示したことをきっかけに、マンション設備劣化 診断調査を実施。調査の結果から全面改修を目標に、可能な限り同時期に更新し、工事費および維持保全費の縮減・入室工事頻度や住民の精神的ストレスを縮減する方針として定め、必要な工事項目は以下の通りと判断し、組合工事として進める。
③ ライフサイクルコストの低減(評価ポイント1)
 給排水管・給湯管の同時・オール樹脂化、耐用年数が近似する配管材による修繕周期の一元化
④ 将来の給排水設備修繕費や受水槽の維持管理費の削減(評価ポイント2)
加圧給水方式を直結増圧給水方式、直結増圧直列多段型方式に変更
⑤ 排水制限長期化の回避に向けた工程計画の工夫 合意形成の取り方に対するきめ細かい対応(評価ポイント3)
⑥ 合意形成のために、排水制限中の不安を軽減する(他のポイント)
ア 居住者用仮設トイレの設置
イ ポータブルトイレのお取り寄せ(有料)
⑦ 合意形成のために、不在者対応の充実を図る(他のポイント)
在宅出来ない方の為には、簡易鍵又はキーボックスの貸し出しを無償にて行う。
⑧ 設備改修の最新動向と実例紹介
ア 共用部排水管更新(トイレ床・壁 共用部排水管の更新)
イ 専有部給水・給湯管更新(洗面所床 専有部給水・給湯管の更新) 
ウ 共用排水立管で発生する付帯建築工事の範囲を有効活用して専有部配管を更新
エ 全住戸タイプ別に設計を進める中で、判明した大きな物理的課題
   議論された方針案別の検討内容整理表(検討結果と決定方針)
・UBの解体組立が可能であることが確認できた場合
・UBの解体組立が不可能な場合
・UB下の排水管が更新されていることを確認できた場合
⑨ それ以外の合意形成を成立させる過程で判明した、ソフト面の細部課題
⑩ 実際の工事工程は1年かかっている。
(2)翔設計の事例2
  マンションストック長寿命化等モデル事業(国土交通省) 令和4年度・工事支援型にて採択された事例であり、居住者の負担軽減を考慮し、修繕積立金を充当して専有部分を含む給水管、排水管及び給湯管の一斉更新を行う工事であり、2つの提案方式が紹介される。
  ① PM方式(設計監理・マネジメント方式)
    実行 設計・監理:コンサルタント会社、設計事務所等
工事:建設会社や改修専門工事会社、管理会社の工事部
特徴 調査診断・設計・監理と工事を分離させるためのメリット、デメリット紹介
  ② 責任施工方式
    実行 建設会社や改修専門工事会社、管理会社の工事
    特徴 調査診断・設計・工事までをまとめて1社で行う
    1社で行う場合のメリット、デメリットが紹介される。
 最後に、マンションには個体差があり、一般的に言われている周期が全てではない事、大切なのは”適正な工事時期“を見極めて実施する事であり、ポイントとして、マンションのコンディションを見ること、調査なしに計画を延ばすことは不可能であることが述べられる。