下水道のことを根本から考えてみませんか (第3話)
[第3話では、排水に関する個人と公共の役割とか責任に立脚して、下水処理における「公共」と「個人」の費用負担の割合について考えます。途中から、話が少しややこしくなりますが我慢して読み続けてください。]
第五章 下水処理における「公共」と「個人」の負担割合
(一) 排水権に伴う基礎汚水量に係る分
人間は生き、生活して行く上で水を使用し、消費し、汚染させます。原則からすれば、自然界から水を取り、使用したあと自然界に返すのですから、汚染はその原因者が自らの責任で浄化し、元の状態に戻しておくべきと考えるのが本筋です。
しかしながら、第四章の(二)でも述べたように、環境容量が充分な所で個人が生活する場合、自然の浄化力を利用すれば、ある一定の限度までは環境を損なわずに汚濁負荷を排出できるはずであり、それに相当する分は個人に責任を課さないとするのが順当です。つまり、その分を基礎汚水量ないし基礎汚濁負荷として責任を控除するのです。
ところで、その限界の汚水量とか汚濁負荷の定め方ですが、これについては次のように考えます。
人が生活する上で最小限必要な水の用途としては、@飲用 A調理用 B洗濯用 C拭躰用(浴用ではない)が考えられます。やや少なめの見積りかも知れませんが、これらは全部合わせてほぼ50g/人/日程度と思われます。
この中にはし尿の始末に使う水量は含まれません。最小限の水使用で生活するケースでは水洗便所ではあり得ないからです。し尿は別途に貯留され投棄されるものと考えます。
このような場合、し尿の汲取り、運搬、処理、処分(投棄)は一般的に清掃事業として市町村、つまり公共の責任で対応がとられており、費用も一部を除く大半が市町村の負担となっています。従って、もし下水道を整備し、水洗便所でし尿を始末する場合、それに要する費用の一部は公共が責任をもつことにしてもおかしくありません。但し、水洗便所化は個人に対し快適性という利便をもたらす部分があり、個人としても一部分を負担する必要があります。ここでは公共・個人の負担の割合を折半とします。
ところで、人が水洗便所のために使う水の量は概ね50g/人/日程度といわれています。これより、水洗便所用の水消費に関し公共で負担すべき水量は、50g/人/日の半分で25g/人/日となります。
従って、最小限水使用量と水洗便所用水量の半分を加えたものを基礎消費水量ないし基礎汚水量とすれば、
基礎汚水量=50g/人/日+25g/人/日=75g/人/日
となります。そして、この基礎汚水量までは、その処理処分に要する費用は公共で負担すべきなのです。これを越える分についてはPPP原則からみて、個人がその責任において負担するのが妥当と考えます。
一方、汚濁負荷については、汚水の水質指標をBODにとり、その平均的濃度を150r/gとすれば、
BOD汚濁負荷量=150r/g×75g/人/日=11.25g人/日
となり、SS(浮遊物質)についても、濃度を150r/gとして11.25g人/日となります。これらが「基礎汚濁負荷量」と呼ぶべきものになります。
さて、現在、日本の下水についていえば一人一日当りの平均的汚水発生量は、約300g/人/日とみられますから、前記基礎汚水量の割合は、
75g/人/日÷300g/人/日=0.25
で、4分の1に相当する値となります。濃度が一定とすれば汚濁負荷量の割合も同様に4分の1となります。
これらの割合は便宜上、老若男女を問わず一定とします。また国土の環境や国民性から推察して日本列島全体に一定した値であると考えて良いと思います。
(二) 水質汚濁防止効果の広域性に係る分
汚水処理のうち、水質汚濁防止効果に係る分については次のように考えます。
まず、下水道が整備されていない場合の市街地における都市排水と公共用水域の水質汚濁の関係を当ってみましょう。
個人が生活をすることによって発生する水循環系の汚濁負荷量(発生負荷量)は、前述のように、@し尿起因のものと A生活雑排水起因のもの とに分けられます。
下水道が未整備の地区では、@は便槽から汲み取られて別途処理されるか、し尿浄化槽などで処理されます。そして、その一部は分離液などとして戸外に排出されます。一方、Aは通常未処理のまま戸外に排出されています。合併浄化槽を使うようになってAも@と同時に処理されるようになってきましたが、まだ既設の単独浄化槽の切り替えはあまり進んでいません。
戸外に排出された負荷量(排出負荷量)は、地下に浸透するか、側溝や小水路を経て公共用水域に達しますが、途中の水路などで自然の浄化作用を受けて量が減少します。
ここで、減少する負荷量を「浄化による消失負荷量」、残りを「流達負荷量」と呼び、排出負荷量に対する流達負荷量の割合を「流達率」と呼ぶことにします。
これらの関係は図―3に示すとおりです。
さて、もし流達負荷量に相当する負荷量を発生の段階または排出の段階で削除しておけば、公共用水域への汚濁負荷量の混入は生じないはずです。もち論、実際の現象でこのようなことはあり得ませんが、計算上考えることが可能です。
つまり、流達負荷量相当分については「個人がその責任においてあらかじめ除去しておくことにすれば、水質汚濁は生じない」と観念的には考えることができます。従って、この部分に関しては「個人の負担」とするのです。
次に下水道が整備された場合を考えます。この場合は下水道管内での浄化作用は殆んどありませんから負荷量の減少はなく、排出負荷量がそのまま処理施設に到達することになります。従って、もし処理施設で個人が処理施設への到達達負荷量を除去しようとすると、下水道未整備の場合に比べ浄化消失負荷量分だけ余分に汚濁負荷量を除去しなければならないことになります。未整備地区との公平性からいえば、この分に関しては公共の責任において対応するとしてもおかしくありません。
しかし、下水道未整備区域に比べ個人は快適な都市環境や良好な衛生状況など下水道のメリットを多く享受できる特典を有しています。
そこで、この浄化消失負荷量分については、個人と公共とで折半することにします。つまり一般市街地での流達率と排出負荷量などから次式で公共負担分を算出するのです。
水質汚濁防止効果の公共負担分
=(1/2)
×排出負荷量×(1−流達率)/発生負荷量
いま汚濁負荷指標をBODにとると、「流総指針」(注1)によれば発生負荷量は昭和50年の値で50g/日・人で、内訳はし尿起因18g/日・人、雑排水起因32g/日・人となっています。し尿起因の1/3、雑排水起因の全てが排出されるとしますと、排出負荷量は38g/日・人となります。また、同指針によれば、市街地部における標準的な流達率は0.6すなわち6/10となっていますから、これらの値を前式に代入して計算しますと、
この水質汚濁防止効果の公共負担分は
水質汚濁防止効果の公共負担分
=(1/2)×(38/50)×{1−(6/10)}
=(152/1000)≒3/20
となります。
(三) 公共が負担すべき割合の計算
以上(一)及び(二)より、公共が負担すべき割合は
公共の負担割合=(1/4)+(3/20)=8/20=2/5
となります。公共の負担率は4割ということになります。
(四) 費用負担における設置費と管理費の振替え
処理場の施設が完成して運転管理に入ったあと、耐用年数が来るまでフルに稼動したとします。この間に支出される総管理費(T)は、現行の財政措置を参考にすると、運転管理費(A)と起債等償還費(B)の和として与えられます。
T=A+B ・・・・・・・・・・・・(1)
また、Aは運転経費(a)
と維持修繕費(b)
とからなり、Bは起債の元金償還費(c)
と起債の利子償還費(d)
とからなリます。すなわち、
A = a + b
・・・・・・・・・・・・・(2)
B
= c + d ・・・・・・・・・・・・・(3)
です。ところで、いま、
B/A=P ・・・・・・・・・・・・・(4)
d/c
=q ・・・・・・・・・・・・・(5)
と、置きますと、(3)、(4)、(5) より
A=(q+1)・c/P・・・・・・・・・・・(6)
が成りたちます。
また、処理場の当初設置費(建設費)を I(アイ)とし、これに公共の費用が負担されている割合、つまり「公共費率」を n とし、更に公共費以外の個人が負担すべき費用が全て起債で充当されているとすれば
c=(1−n)
I・・・・・・・・・・・・・(7)
ですから、(6)と(7)より
A={(q+1)/P}・(1−n)
・・・・・・・・・・・ (8)
となります。
ここで、qはd/cですから起債の利子の関数であり、PはB/Aで、Bにはcが含まれ、c
は I と n で表すことができますから、本来は n の関数のはずです。しかし、ここではこれを簡略化し、過去の実績(注2及び注3参照)を参考にして
P=1.5
q = 1.5
を導入します。これより、(8)式は
A
=
(5/3)・(1−n)
・I ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
となります。
さて、第五章の(四)の負担原則によれば、公共は、設置費(I)はもちろんのこと管理費(A)についても応分の負担を行うこととしています。しかし、公共の一翼を担う国の場合、国費を補助金の形で管理費に投入することが現行制度では難しい点を勘案し、図―2の下段のようにその分を設置費(I)における負担分に加算して個人の負担分を削減し、代りに管理費(A)において個人の負担分を増加して相殺を図ることにします。
つまり、Aと I を加えたもの全体で所定の負担割合を確保するわけです。
いま、公共で負担すべき額をKとしますと、Kは
K
=
(2/5)
・(A
+ I ) ・・・・・・・・・(10)
となり、(9)式をこれに代入すれば
K
=
(2/15)
・(8−5n)・I ・・・・・・・(11)
となります。
ここで設置費における公共費率 n
は
n=K/I ・・・・・・・・・・・・・・・(12)
ですから、
n=(2/15)
・(8−5n) ・・・・・・・・・(13)
となります。これよりnを求めると、
n=0.64≒0.6または2/3
となり、処理場の設置(建設)時、その経費の6/10〜2/3を公共が国費や府県費及び市町村費をもって負担すればよいことになります。残り(不足分)は起債措置して資金を充当しておきます。
この起債の元利償還金は運転経費や維持管理費とともに個人の負担とし、使用料の形で回収することにします。
以上の関係を図で示すと図―4のようになります。
なお、この考え方の中では公共負担のうち、国費はもちろん、府県費や市町村費もキャッシュ(現金)をもって負担することを原則としています。
もし、公共負担分について府県や市町村が起債等の借金で充当するのであるならば、その起債等にかかる利子は元金とともにすべて別途に起債者が負担すべきものですから、相殺計算には含めないようにします。
また、こうした都道府県や市町村の負担(利子を含めて)については、従来通り基準財政需要額対象とするのが妥当と思われます。
(注1)
流域別下水道整備総合計画調査指針と解説(昭和58年 日本下水道協会)
(注2)
,建設省編「口本の下水道62年版」58頁、表9−18によると、
P=B/A=起債償還費/運転管理費の値は
昭和58年値:1.483、
昭和59年値:1.587
昭和60年値:1.650
となっている。
(注3)
現状の起債条件である5
年据置き、25年償還、利率5〜7%(平均5.68%)とすると、
元金100に対し利息額は150となる。
(第3話:おわり)
安藤茂
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