水倶楽部会員 齋藤 均
1.はじめに
平成17年の年末から今年(平成18年)の年始にかけて、小学生が登下校中に殺害されたり、誘拐されたりする事件が相次いでいる。 また、女子中高生を狙った犯罪も起きてきている。 これらはみな、「自分よりも弱いもの」への無差別的な犯罪であるだけでなく、「弱い者」が「孤立」(周囲の大人たちから見えないような時)に発生していることが多い。 まことに痛ましい限りである。 少子化が叫ばれている現在、このような犯罪が続けば、母親になる女性にとって、わが子を出産することにためらいさえ生じてしまう感じがする。
これを前書きとさせていただく。
2.(社)日本下水道光ファイバー技術協会 公文章三氏の発表より
@光ファイバー(FTTH)は、他の方法、無線や電話線などと比較して、もっとも高速で大容量の情報を伝達することが出来る。
A日本のブロードバンドは、世界一安く享受できる環境になりつつある。
B民間業者は不採算地域にFTTHの整備を行わないが、これに対しては、公的整備を行う計画が出来ている。
C交通事情の悪い過疎地域の情報弱者にとって、FTTHにより、多種多様な行政・医療などのサービスを遠隔的に提供できる。
D電話線のように光ファイバーを敷設すれば、テレビ電波の過疎地域が無くなる。
下水道光ファイバーの利点としては
@地震・台風などの災害に強く、信頼性が高い。
A電柱が無くなり、町の景観に寄与
Bセキュリティの面で有利(架空電話線には盗聴器が仕掛けられる。故意に切断されたりする。)
C各家庭に接続しているため、ネットワーク構成が容易。
D個別に埋設するより、管内に添架することで、工費が軽減できる。
E国庫補助制度の適用により、経済的構築が可能である。
従来の架空線に比較して不利な点は
@断線等のトラブルに迅速に対応できない。
A管内添架より架空線の方が、工費が安い。管渠内添架は工費が高い。
との事であった。 特に、下水道FTTHに特異的な要件として
@下水道の維持管理に支障が無い。
A下水管渠の本来の機能(汚水の流下)に支障が無い。
B光ファイバーの伝送機能に支承が無い。
C光ファイバーケーブルの敷設換え等において、支障が無い。
D下水管渠の改築・更新に対応可能。
事が、制約条件となっているとされた。
3.水倶楽部会員 深堀政喜氏(NTTインフラネット)の発表より
@総務省では、2008年末にFTTHの世帯が、3千万を突破すると予想している。
A2011年7月には、TV放送はデジタル放送に一本化される。
→電波が届かない地域→FTTH
FTTHの普及により、地上波放送のバックアップを光通信で行う。⇒将来的には光通信がメインに?
B人口減少・少子化社会を迎える日本では、ユビキタスネットの利活用により、対応を行うしかない。
C下水道空間活用の試みとして。
電線地中化 日本:10%程度、 ロンドン・パリ:100%、ニューヨーク:70%
Dユビキタスの切り札か?「国交省:下水道未来研究会案33」:下水道光ファイバーとマンホール蓋ICタグによる、多目的情報通信とセンシング。
その他、e-JAPAN、2010年のユビキタスネット社会のイメージが紹介された。
4.私見
光ファイバーは、現在最も大容量で高速な通信網である。 光ファイバーの管渠内敷設ロボットが開発されたからと言っても、従来のように架空線で配線する方が、工事費は安価である。 しかし、公文氏の利点@・Aのように、景観を考えれば、光ファイバーは下水道管渠内に添架するほうがいい。
動力線(電線)自体も、地中化し、街路から電柱を駆逐する方がよい。
例えば住宅地、古くからの土地割りで、街路が狭い場合、通常電柱は街路の民地との境界線ぎりぎりに建てられているので、車のすれ違いとかが出来ない。 また、日本はほぼ全土で台風が通過する可能性があるので、動力線が、飛来してきたものにより切断される可能性がある。
また、景観的にも良くないし、市街地等では、風俗関係の捨て看板が取り付けられたり、貼り紙がされたりして見苦しい。
以上の観点から、光ファイバーを地中化(下水道管渠内添架を含む)する以前に、電線(動力線)を地中化し、市街地や住宅地からは電柱を駆逐して欲しい。 基本的に電柱は、電力会社の持ち物で、電力会社は株式会社であるから、当然毎年儲けが出るように運営している。 だとしたら、その儲けの一部を、より多く、電線の地中化に回してもいいのではないか。 ちなみに、我が家は群馬県にあるが、以前畑地であったところを、宅地にしたので、道路が狭いことから、畑地に電柱が立てられていた。 そのまま宅地になった事から、我が家の中には電柱が3本も立っている。
(写真参照)
群馬県は東京電力の範囲内であるが、我が家は宅地内に電柱があることから、東京電力から、電柱1本当たり毎年いくばくかの借地料を貰っている。 ちなみに駐車場代より全然安い。 このような家は、群馬県は他にも結構あると思う。 こんな借地代払っているのならば、電線を地中化しろと言いたい。 ちなみに、1ブロック先の、高等学校が面している2車線の通りは、「景観の為」と称して、電線を地中化しているのだ。 我が家の前は、車は物理的にすれ違うことが出来ないと言うのに。
電線が地中化されれば、電柱が無くなり、いやおうなく、光ファイバーも地中化される。
そこで、3.深堀氏のB・Dである。
1.はじめに でも書いたが、「社会的弱者」、現在特に子供や女子中高生が孤立しやすい状況にある。 彼らが、ICタグを持っていて、マンホールにより情報通信とセンシングが出来れば、不審者により誘拐されたりする怖れが無い。 また、センシングの情報が、家庭のモニターで確認できるようになっていれば親は安心である。 モニターにより、我が子が友人宅にいることがわかれば、多少遅い帰宅になっても安心であるし、帰宅の通路上のマンホールを通過する毎に、子供の位置が示されるのであるから。
これは、端末を携帯電話サイズにすることに出来れば、現在は位置ナビゲーションシステムが自動車の専売特許になっているものを、歩行者・自転車・バイクなどで利用することが出来る。 もちろん、携帯電話もかけられるシステムになるだろう。
英語版を作ったとしよう。 外国人が東京観光などをする場合、ナビシステムを渡せば、自分の現在位置が分かるし(英語で)、電車の乗換えなども、英語でガイドラインが出る。 多国語対応にすれば、日本を観光立国することも夢じゃない。時刻表だって表示されるだろう。 モバイルサイズで、キーボード付きにすれば、ビジネスマンは、喫茶店で仕事が出来る。(自分はそこまで仕事をしたくない。)
ただ、光ファイバーを下水道管渠内に設置した場合、マイナス点は、比較的大きな箱型断面のものが管内に添架されるので、下水管渠の清掃に邪魔である事だ。 公文氏は下水管渠の清掃に、高圧水洗浄のみを想定されていたが、ピグによる全断面押し出し流れのような清掃に対しては、どのように対応するのであろう。 ピグ本体に、光ファイバー部分の切り欠きを作っておいた場合、ピグ洗浄が出来るのであろうか?
さらには、分流式の下水道管においても、豪雨や管渠に不陸が生じてしまっている場合には、マンホールの鍵穴の部分から、汚水が噴水のような勢いで、噴出することが良くある。 この場合、管渠内光ファイバーのケーブルボックス内にも、汚水が浸入するだろう。 大丈夫なのだろうか?
また、下水道管渠防食協会の方から、「管渠内に防食膜を作っても、光ファイバーの添架により、穴を開けられ、防食が無意味になる。」と言う指摘があった。
僕はこの点は、あまり心配していない。
と言うのは、すでに防食膜を施工してある管に対しては、添架するケーブルボックスのサイズが決まっているのだから、所定の位置に、ボルトで言う、メス側の穴を開けて、穴の周囲は、樹脂などで固めて、皮膜に穴が開いたことへの影響が無いようにすればいいと思うからである。
取り付ける時は、管渠内の皮膜に傷をつけないようにして、オス側のネジをねじ込んでつければいいのである。
管渠の腐食が激しくて、皮膜をつけるようになったのは、まだ最近のことであるし、下水管の流下物が偶然に衝突して、皮膜にピンホールが発生した場合の補修技術については、まだまだこれから開発する技術であるのだから、僕の提案した、メス穴先行設置方式を同時に検討しても良いのではないだろうか?
1.はじめにの部分に戻るが、深堀氏のPPT17ページで、提案されている案のように、各児童が腕時計のようなICタグをはめていて、通学路のどこを通っているのかが家庭のモニターで分かるような、下水道光ファイバー+マンホールができれば、このような不幸な事件は確実に減らされていくのではないか。 また、そのような社会が来ることを願うし、下水道光ファイバー網で、高齢者が情報弱者にならない社会がくればよいと思う。
この件について、「下水道の生き残りですね。」と言う発言があったと言う紹介が、「正論広場」でされているが、住宅街と小・中学校間で、電柱が無くなり、下水道管渠内に光ファイバーが引かれれば、下水道の生き残りと言うより、総務省・警察庁の仕事になってくると思う。 通信・情報は総務省の仕事だし、地域の安全は警察庁の仕事であるから。 我々は、その舞台を作る、製作者に過ぎないと思う。
以上、ITセミナーの概要も交えて、私見を述べさせていただきました。 当日PPTで発表された、公文章三様、深堀政喜様、勉強になりました。 大変有難うございました。 また、司会をされた、村岡 基様 お疲れ様でした。 なお、正論広場の方で、意見が盛り上がっておりますので、本駄文に対しても、いろいろご意見を頂戴いたしたいと思います。 よろしくお願いいたします。
以 上
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