Water Network  霧発生によるヒートアイランド対策
 

   水道産業新聞 2006年5月22日(月) 掲載

                         NPO法人・21世紀水倶楽部 理事    亀田 泰武


1,はじめに

まもなく夏を迎えるが、東京地域では年々ヒートアイランド現象により暑さが増している感じがする。大都市のヒートアイランド現象を顕著にする要因として、高密度に設置されたビルの冷房機器から発生する熱、自動車から発生する熱の他に、緑地・水面など水の蒸発する面積の減少があげられている。

緑地や水面は、水分が蒸発し、潜熱として空気中の熱を奪う働きがある。ヒートアイランド対策として、屋上緑化など緑化面積の拡大、路上の散水がはじまっている。

ここで推奨したいのは人工霧の利用である。霧は夏期の高温空気中ですみやかに蒸散して、効果的に周辺空気を冷却することができる。気温が上がるほど、飽和水蒸気量は相乗的に増加し、蒸散効果が期待できる。霧は立体的に散布できるため、蒸発の効率が高い特性をもっている。霧発生装置はこれまで景観用に小規模に使われてきたが、ヒートアイランド対策の一環として、多数の施設に設置することにより大きな効果が望める。

2,各種ヒートアイランド対策

ヒートアイランド対策として、空調などの省エネ、屋上緑化などが実施され、打ち水作戦などが夏場の行事になっている。

緑化の冷却効果は主として葉面からの蒸散で生じる。その程度は植生や気候の状況によって異なるが、筆者は夏場で一時間1平方メートル当たり0.5リットル程度と考えている。水面も蒸散効果が大きく、1時間に1リットル程度と思われる。

設置者への優遇策を
           原料は信頼できる水道水


3,霧システムのこれまでの利用

霧発生システムはこれまで景観的なものに主として利用されてきた。ところどころの公園スペースに設置されたり、また、毎年開催される、緑化フェアでは何点かの霧を用いた庭園が出品される。博覧会ではけっこうな規模の発生装置が設置されることが多い。愛知万博でも、アフリカ共同館、植栽の壁であるバイオラング、風の塔など様々なところで使われた。残念ながら、霧発生の運転時間が短く、遭遇した方々は少なかったと思われる。このように霧システムは公園や植栽に彩りを添える芸術的な面も持っている。


 

4,微細霧の特長

霧を発生する装置は塗料の塗布、洗浄、空調など広範囲・多用途に使われていて、一般的にノズルが用いられている。ノズルは流量、霧のサイズ、形状などによって多数の規格がある。

大気中で速やかに蒸散させる目的のものは、霧のサイズが小さくて、落下速度が遅いものが好ましい。空気中をゆっくり下降している間に蒸発する。サイズが大きいと、蒸発前に地面に落ちてしまう。この微細霧の発生のため、高圧のノズルが適している。
 
さいたま新都心近くの公園 
 池を横断する橋の両側から微細霧を水平に発生


5,霧発生の利点

霧発生システムの利点として、設置場所が面でなく線でいいことと、立体的な蒸散ができることがある。ビルの屋上は通常空調設備が設置されているところが多いが、建物のへりや屋外空調設備の上などにノズルの配管を設置することができる。また発生した霧は風に流され、すぐに蒸散するので、水の散布量をを多くすることができる。

このため既存のビルに設置が可能で、水と電気が得られるところであれば他の施設をこわさないで設置できるため、都心区域においてビルの大改造をすることなく地域面積の何割もの大規模な水面を作ったような効果を発揮することが可能である。

具体のイメージで考えてみる。2千平方メートルの屋上緑化により、1時間に水1立方メートルの蒸散を期待することができる。この潜熱により東京ドーム約1.5個分の気温を1度下げることができる。

この屋上緑化区域の南側のへりに一連の霧ノズルを配置した管を設置すると、同量の蒸散効果を持つ微細霧を生産することができ、緑化と合わせて冷却効果が2倍になる。

6,霧発生の課題

ノズルからでた霧が気中に漂って、速やかに蒸散するため水滴の大きさは非常に小さいものが要求される。この微細霧をノズルで発生させるため数十気圧の圧力が必要となる。ただ、霧発生に使われるエネルギーは冷却効果より2桁少ないものである。また高層ビルのように落下距離が稼げるものは水滴が大きくても落下途中で蒸散でき、消費エネルギーは少なくできる。

空気で水を飛ばす2流体システムもあるが、エネルギー消費量は高圧霧に比べ多い。

霧発生システムを取り付けた者へのメリットが少ないこともある。霧はすぐ飛んでいってしまい、地域全体の冷却には貢献するが、発生源でのメリットが少ない。


水のコストもある、蒸散のため含まれているものもエアロゾル化するため、水質にも気をつかう必要があり、水道水が信頼できるものとなる。霧発生装置を夏場気温30度以上の時に運転すると、1シーズンで400時間程度と多いわけではないが、霧発生装置取り付けが期待される大規模ビルのような大量水消費には水道料が累進的にかかるようになっていて、また下水道使用料もかかってくる。水道料金400円、下水道使用料350円として2千平方メートルの緑化に相当する毎時1立方メートル の霧発生システムにあてはめると1シーズンの支出が約30万円となる。また電気代が約4万円必要になる。一方屋上緑化の散水も必要で、水コストもかかる。システムの公共性を考えた優遇策の検討も必要になると思われる。
 

バイオラング 霧発生時の状況

7,終わりに

微細な霧発生によるヒートアイランド対策について説明してきたが、このシステムは既存の建物に設置できる利点があり、ビル管理者の協力があれば、都心部などの蒸散量を大幅に増大することができるものである。緑化を極力推進し、霧発生システムを付加することにより、大きな効果を期待できる。また微細な霧は景観としての価値も高く、建物を装飾する手段として活かすことができる。

問題は設置者のメリットが少ないことであり、このへんの公共性への理解が進み、対策が進むことを願うものである。