地球温暖化とバイオマス利用促進
 

「NPO法人 環境工学研究所主催:第2回環境工学講演会に参加して」 会員:齋藤 均
 

1.地球温暖化について

内藤先生の話に近くなるのですが、地球温暖化は加速度的に進行しています。
それには、化石燃料の消費が非常に寄与している事は明らかです。

それに対し、最近は家電製品は省エネ型になっていますが、全面電化の家とか、家庭用ガスコンロをIHクッキングヒーターに転換したり、冷暖房を電力で行ったりしています。

ご存知の通り、自然界から直接入手できる電力は、雷以外はありません。

全て、発電施設による2次的エネルギーです。

これは、技術試補の試験の記憶すべき数値ですが、電力化率:つまり一次エネルギー(重油・石炭・原子力)の燃焼から、二次エネルギーである電力に変換する効率は、現在の最高水準で、おおよそ42%程度です。 技術の進歩により、発電効率は上がるでしょうが、それに対して、電力消費のほうが追いつかない状況であります。

現在の火力・水力・原子力発電所は、電気の大量消費地である、都市の中心部には立地していません。 その為、高圧線で電力移送して、変電所で低圧電力に変換し、市街地に電線で配電し、戸別配電する前に、トランスでさらに電圧変換と3相交流⇒単相交流変換して、家庭内配電盤を通じて、電力を供給しています。

したがって、発電の効率が42%で、それに送電ロスを含めると50%近いロスが発生しています。

つまり、発電のために、それだけ一次エネルギーを余計に必要としているという事です。 電力を使うことは、非常に一次エネルギーのロスの大きいエネルギーを使用する事になります。

火力・原子力発電は、それぞれの燃焼熱エネルギーにより、高圧ボイラで200℃近い蒸気を発生させタービンを回し、タービンの回転効率を高めるために、タービンのアウト側には、復水器を設けて、折角沸かした高圧蒸気を、再度水に転換して、タービン内に負圧を作って、回転力を上げようとしています。 そして、復水器のために、冷却用の水をガンガン使います。

その為、火力・原子力発電所は、必ず冷却用水を大量に確保できる、海岸部に立地しています。

したがって、室内の暖房に使うのにも、電気ヒーターや、電気ストーブ、電気温水器の利用は、もっとも無駄な事をしているといえます。 そのまま薪を焼却しても、充分暖房に利用できるからです。

米国のカリフォルニアが停電が多いのは有名ですが、なぜだと思いますか?

彼らは、調理にガスを使わないのです。 電熱器を使うのです。 しかも、IHヒーターならまだしも、従来の電熱器、ニクロム線による抵抗で発生する熱を利用した電熱器を使用しているのです。

それに、オーブンも電気。 家電製品はみんな電気。 暑いので、エアコンは当然電気。

電力は二次的エネルギーで、「もったいない」という事が分からないのです。 だから、夏場にエアコンをガンガンつけて、まとめ買いして来たアイスクリームを保存するために、大型冷蔵庫を使い、肉を食べるために、電熱器を利用して加熱調理する。 まさに、電気の無駄遣い。

電力(電気)は、それしか使えない用途で使うべきなのです。 例えば、IT社会を支えるコンピュータ。 家屋内の電灯。 そういったものに限定すべきなのです。

日本でも、中層階以上(基本的には6階以上)のアパート・マンションについては、地震時の安全性などを考慮して調理には、電熱器しか使えないように、建築基準法で定められています。

電熱器でお湯を沸かす事を経験すれば、すぐに分かるように、お湯が沸くまで、まず電熱器自体が加熱しなければならないので、ものすごく時間がかかるし、お湯が沸いて、加温が不必要になった後は、電熱器は熱いままでなかなか冷めない。

二次エネルギーである電力をものすごく無駄に使っています。

これが、天然ガスコンロであれば、一気に沸かす事が出来るし、エネルギー消費量も少なくて済みます。

2.メタン発酵について

メタン発酵は、バイオマスを嫌気性消化する事により、メタンガスと二酸化炭素に分解してしまいます。 同時に硫化水素なども発生しますが、現在は脱硫装置の機能が向上しているので、ほとんど除去する事が可能です。

私の従来の研究により、初沈汚泥を完全に嫌気性消化した時に発生する消化ガスのガス組成は、メタン60〜65%:二酸化炭素35〜40%です。 硫化水素はppmの単位での発生なので、コンクリート構造物の腐食対策には影響がありますが、脱硫装置を通過させることで、除去可能です。

この脱硫消化ガスをそのまま燃焼させた場合、得られる熱量は都市ガス(100%メタン)を燃焼させた場合の約1/2の熱量が得られると知見が得られています。

また、燃焼器具に気体として供給されるので、適当な空燃比を設定すれば、完全燃焼が可能です。

今、不法改造で問題となっているパロマ社では、ボルテックスタイプのガスコンロを開発しています。

これは、従来のガスコンロは、炎が放射状に広がるのに対して、ノズルを内側に向け、竜巻を起こすように炎の柱を作るものです。

こうする事により、バーナーの外側から、効率的に空気を巻き込むことで、より高い燃焼効率が得られるとされています。

消化ガスの利用で、ガス単体の発熱量が減少したとしても、ボルテックスコンロを使用することにより従来と同じ位の性能=熱量を持ったガスコンロの利用は可能なのです。

さらに、消化ガスは、バイオマスなので、カーボンニュートラルであり、天然ガスに混入させる事で従来の器具をそれほど改良する事無く使用することも可能です。

また、脱硫装置で除去した硫黄ですが、ゴムの製造において、SBR:つまり自動車・航空機用の耐摩擦性の高いゴムには、生ゴムに硫黄を添加して、重合度を増して丈夫にしています。

従来は、天然に発生している硫黄(硫黄島の硫黄)などを採掘したのですが、都市廃棄物(汚泥)から、硫黄の回収・利用が出来るので、これも地球環境に優しい技術だといえます。

3.バイオマス自動車

現在街中を走っている車のほとんどは、乗用車の場合、ガソリンエンジンです。

ガソリンエンジンの熱効率は20%強です。 つまり、エンジン内でガソリンを燃焼させたエネルギーの20%しか、走行能力に使っていない。 その他は? ラジエターを通じて、大気中に熱として逃がしているのです。 また、燃費について言えば、街中をゴー・ストップして、常に回転数を大きく変化させ、夏にはエアコンをつけた場合、10%近く悪化するというデータが、自動車燃費研究所(?)「テレビでやっていた。」で得られています。

つまり、残り少ない資源である、ガソリンを湯水のように使って、自動車を運転し、二酸化炭素や窒素酸化物を発生させ、温室効果ガスを大量に発生させる。 さらには、エンジンそのものを冷却させるために、大気そのものを暖める。 その上、冷房をつけることにより、ガソリンの燃焼量を増加させ、さらに、車内の熱気を大気中に拡散する。
 
もう、自動車で冷房を効かせて、街中をのろのろと走る事ぐらい、温室効果に寄与している事は無いと言えましょう。

それに対し、メタノール自動車や、水素自動車は、カーボンニュートラルです。 また、現在の自動車は、燃料噴射にEFI(電子制御燃料噴射装置)を使用して、エンジンの各回転数に応じて、最適な空気:燃料の比率(空燃比)が得られるように、自動制御されています。

したがって、燃料がガソリンからメタノールや水素に変っても、EFIを制御するプログラムをメタノール用や、水素用に書き換え、燃料タンクをそれぞれに対応した、防爆型のタンクに変更する事により、現在使用しているガソリンエンジンがそのまま使用できるのです。

自動車の改造において、EFIプログラムの書き換えは、レース用車両で頻繁に普通に行われている事であり、燃料タンクの改造については、FF車の場合、空間的に自由度の高い後部の改造で済むので、安価な改造で、バイオマス自動車への転換が可能という事になります。

現在のレバノン・イスラエルの戦闘状態により、原油価格が高騰し、ガソリン単価が上昇を続ければ、永久に高くなり続け払い続けなければならない、自動車用ガソリンのランニングコストより、改造による初期投資は高いけれど、バイオマス由来の安い燃料が使用でき、しかもカーボンニュートラルで、枯渇の心配をしなくて良い、メタノール車や水素自動車は、ますます普及するでしょう。

現時点で、ブラジル政府は、ガソリンに代替する燃料として、アルコールを得るために、サトウキビの栽培を奨励しています。 サトウキビからグルコースを得て、加工する事により、アルコールを得る。

そのアルコールをガソリンに混入する事で、自動車燃料を改質する事で、燃料単価を下げる。そういう試みです。

日本では、サトウキビは沖縄でしかほとんど作る事が出来ませんが、北海道では、テンサイという砂糖大根を作っています。 テンサイからもグルコースが取れます。

野池先生の講義では、東北から北部において、休耕田が目立っているということでしたが、バイオマスエネルギーの生産のために、本州北部から北海道にかけて生産可能な、テンサイの畑に転用するのはどうでしょう? サトウキビばかりが、砂糖を生産する植物ではないのです。

また、搾ったテンサイやサトウキビのかすについては、草食動物である、牛やヤギなの飼料に利用すれば、牛の飼料のために、牛骨粉・とうもろこし等を使用する必要も無くなるのです。

そして、牛やヤギから発生したし尿については、メタン発酵を行い、葛巻パイロットプラントのようにマイクロガスタービンを回して発電したり、温水を作ったりすればいいのです。

これこそ、循環型社会への第1歩と、私は考えています。

4.下水汚泥のメタン発酵

下水汚泥のメタン発酵は、汚泥を嫌気性消化する事により、消化汚泥の安定性、安全性を図り、固液分離しやすくし、SS分を減らす事により、後段の汚泥処理施設をコンパクト化するという利点がありますが、問題として、嫌気性消化によって生じた、処理水(上澄水)のCOD、窒素、リン濃度が高く、これを再び水処理系列に戻して、処理を行った場合、水処理への影響が大きいという難点があります。

その為に、現在は310基ほどある汚泥消化施設は、「ランニングコストがかかる・維持管理が大変」といった理由で廃棄される数と、新規に建設される基数が平衡状態であり、汚泥消化施設の総数が平衡状態にあります。(下水道統計より)

農村集落排水、畜舎排水の嫌気性消化廃液については、人体に悪影響のある重金属の含有する可能性が低いため、畑地への直接散布液肥として利用用途が確保されています。

しかし、下水道の消化汚泥排液は、下水道の性格上、重金属や毒性物質が凝縮されている可能性が否定できず、コンポスト化される量は限られています。

下水汚泥消化脱離液から、重金属類が回収できる技術が開発できれば、鉱山を切り崩して、金属類を採鉱するより、容易に入手可能な資源となるわけなので、今後開発してゆくべき技術と言えます。

また、下水処理場は、日本の地形と都市の発達の性格上、臨海部に面した、都市に近い位置に立地するケースが多い。 この地域で、下水汚泥を嫌気性消化する事により、メタンガスを発生させ、それを、天然ガスに混入する事により、あまり発熱量を下げる事無く、各家庭でガス器具を使用する事が出来れば、本当の意味で、省資源になると思います。

さらに、下水処理場は多量に電力を消費して運転されているので、そのコストの削減のためにも、マイクロガスタービンにより消化ガス発電を行ったり、余剰ガスにより、ボイラーを運転する事で、消化タンクの加温に使い、より消化効率を挙げる事も出来ます。

5.今後のバイオマスエネルギー利用

バイオマスエネルギー利用は、現段階で、特に新規に技術を開発する必要も無く、既存の技術の応用により、充分可能な手法です。

では、なぜ今までそれが利用されなかったか?

それは単なるランニングコスト、イニシャルコストの問題といえます。

世界中のほとんどの人が、石油資源がいずれは枯渇すると予測しています。 ただ、枯渇するという年度になると、原油の売却単価が上昇する事により、今まで採算性の合わなかった石油採掘が可能になるという事で、枯渇まで何年と言われながらも、その年が来ても、まだ石油が採掘可能であるという状況でした。

しかし、地球環境の面から言って、地球温暖化等の影響を考えると、カーボンニュートラルである、バイオマスによるエネルギー利用の転換期が、今訪れていると言えます。

僕も土木工学者、つまり市民のための工学を研究する者の一員として、バイオマス利用、および嫌気性消化についての研究・知見をより深めていき、そしてそれを社会に還元できるようになりたいと思います。                                        

6.追加事項

8月13日の某テレビ局の報道特集で、「ドイツでは菜の花の栽培を奨励して、それにより、ディーゼル機関を動かしている。」とありました。

日本でもこの試みは始まっているのですが、現時点では採算性が合わず、「使い古したてんぷら油の改質」により、ディーゼルエンジンを動かしているそうです。

ところが、「使い古したてんぷら油」の回収率が進まないため、使い古してんぷら油消費に対して、供給が追いつかない状態なのだそうです。

てんぷらディーゼル油は、通常のディーゼルエンジンにそのまま使えます。

また、ディーゼル機関に特有の、急にアクセルを開けた場合の黒煙が発生しないそうです。

もともと、あの黒煙は、アクセルを急に開ける事により未燃焼になった、軽油中に含まれる鉱物類です。

てんぷら油には鉱物類は入っていません。 だから、黒煙の発生はありません。

野池先生の講義で、休耕田が多いことについて心を痛めている話を伺いましたが、てんぷらディーゼルプロジェクトについては、経済産業省+農水省の補助が出るそうです。

菜の花から出来た、菜種油を食用として利用せず、直接てんぷらディーゼル油に利用できる道が開ければ、下水道消化汚泥を液肥として利用して、菜の花を栽培し、地球に優しい、てんぷらディーゼル車が走り回り、これらは、カーボンニュートラルになるのです。

日本の法制度の改革だけで、簡単に着手できるプロジェクトなので、これこそ産官学が共同して取り組んでいくプロジェクトではないかと思います。 また、どんどん人手不足になっていく農業の活性化にもつながると思います。

以上、思いつくままにまとめてみました。 ご意見・反論、色々お待ちしております。 

以上