窒素リンの生物学的同時除去時代には最初沈殿池は不要
 


最初沈殿池の機能は沈殿可能なSS(浮遊物質)を除去するためのものであり、結果としてBOD物質もほぼ同程度除去されている。即ち、流入下水中の汚濁物質のBOD等は約30%除去された状態でばっ気槽へ流入していた。社会的ニーズ が高級処理で十分な時代には最初沈殿池はバッキ槽の負荷削減のためにも必要であった。

平成19年10月下旬に仙台市広瀬川浄化センターを訪問した。ここでは広瀬川の清流と生態系を保全するために窒素・リン及び残存有機物や色度成分等を除去するために2段循環式硝化脱窒法・オゾン消毒などを採用していることで有名である。窒素除去やリン除去に多くのBOD物質が必要なことから最初沈殿池をバイパスして運転したところ、汚泥処理には余剰汚泥しかないため、含水率が目的値に達せず、やむなく最初沈殿池を使用して沈殿汚泥と余剰汚泥を汚泥処理に送ったところ、含水率が80%を下回ったとのことで、どちらかといえば汚泥含水率重視の運転をしている。窒素やリンの除去率を上げるために、最初沈殿池をバイパスさせ、下水中のBODを効率よく利用する運転が良いのか、脱水ケーキの含水率を低下させたほうが汚泥の処理・最終処分費用が経済的なのかの検討も必要であることを示した例として記載する。

環境基準の達成、放流先水域での利水促進・アメニティ利用および処理水の再利用などのために高度処理の導入が重要視されるようになり、嫌気好気法や嫌気・無酸素・好気法等が、既設のバッキ槽を改造して汚水を処理することが年々多く採用されている。それに伴ってバッ気槽も反応槽と呼ばれ、窒素やリンを反応槽でBOD除去等と同時に行おうとする高度処理の時代に入っている。

嫌気好気法は標準活性汚泥法のばっ気槽の一部を嫌気ゾーンに変更しても汚水の滞留時間(HRT)は殆ど変わらないために比較的簡単に生物学的処理でリン除去が行われている。この反応で重要なことは活性汚泥微生物を嫌気状態に保持すると有機態リンや固形リン等が可溶化されてオルトリンになると同時にBOD物質が摂取・除去されることである。即ち嫌気ゾーンでのリンの可溶化にはBOD物質が必要不可欠である。

つぎに過剰摂取されたリンを含んだMLSSは余剰汚泥として水系から分離・引き抜かれ、汚泥処理施設で減容化と安定化処理を受けて最終的に脱水ケーキや焼却灰等で場外処分されている。

しかし、リン除去はこれで終わったわけではない。嫌気的雰囲気が多い汚泥処理施設からリンはオルトリンとして再溶出して水処理施設に戻る運命にある。汚泥処理施設でリンを固定又は除去しない限り、リンは水処理施設と汚泥処理施設を循環するのみで完全なリン除去は達成できない。

実際は汚泥処理施設でポリ鉄塩などを添加して固定化して場内返流水中のリン濃度を減少させることにより、放流水中のT−P濃度は0.5mg/L程度まで除去されている。故に、計画放流水質基準でもっとも厳しい処理水中のT−P=0.5mg/L程度に除去する場合、汚泥処理施設があるところでは下水は嫌気好気法等で処理し、汚泥処理施設で汚泥に鉄塩等の添加によるリン固定操作が不可欠である。他の方法として場内返流水中に50〜100mg/Lの高濃度なリンが含まれているので、晶析脱リン法で効率よく除去する方法 、さらに場内返送流水中にはアンモニアとリン酸が多く含まれているので、マグネシュームを添加して結晶化したMAPを形成させ、肥料として利用・除去する方法もある。これら3つのリン除去法から発生する汚泥量はバッキ槽出口で凝集剤を添加してリンを除去する方法から発生する汚泥量と比較して少ないと考える。

多くの処理施設が補助金を交付されて建設されている関係上、耐用年数が残存している期間中は施設の撤去は難しいので、バッキ槽は一般に擬似嫌気好気法の反応槽とされる。新規施設の場合や散気装置が耐用年数に達した処理施設ではバッ気槽の前半部には攪拌装置を設置し、後半部は従来どおりの散気装置を設置して嫌気好気法で運転される。

窒素を生物学的処理法で除去するために嫌気・無酸素・好気法等が採用されているが、生物学的リン除去法と同様に、生物学的硝化脱窒反応には除去T−N量の3倍以上のBOD物質が必要で、窒素の除去と共にBOD物質が除去されている。即ち、生物学的窒素除去にはBOD源は必要不可欠である。

これらの処理法が実施設として運転されて約20年は経過している。窒素・リンの生物学的同時除去法の運転から顕在化した問題点は合流式下水道の場合は雨天時に流入BOD濃度は希釈されて薄くなり、また、持ち込みDO濃度が高くなるなど安定した窒素・リン除去が出来ないこと、窒素やリンの生物学的除去に必要なBOD物質が不足する場合が多く、外部からBOD源を補給しなくてはならないことなどが判明している。

外部添加BOD源として一般にメタノールが微生物易分解性等から採用されているが、処理コストアップの問題と残存メタノールによる処理水BOD値のアップなどが懸念される。バッ気槽であれ、反応槽であれ、そこで下水中のBOD物質を酸化除去するのが主目的であるのに、外部からBOD源を添加するのは一歩後退二歩前進かもしれないが無駄である。

上記の処理法で窒素やリン除去率を上げるためには、下水中のBOD:P、BOD:Nのバランスが重要な因子であり、一般の都市排水にBODが不足気味であるので最初沈殿池でBODが約30%も除去されるのは、窒素・リンの生物学的同時除去法等の運転にはもったいないことである。

高度処理時代では最初沈殿池を建設せず、下水を直接反応槽に入れることで生物学的処理法に必用なBOD源は出来るだけ下水中のBODを利活用したい。合流式下水道では最初沈殿池は処理区域特性等で必要な場合があるかもしれないが、分流式下水道では最初沈殿池は不要と考えたい。分流式下水道で比較的小規模施設に適用されているOD法、長時間エアレーション法、ツービート法、回分式活性汚泥法等では最初沈殿池はなく、長年安定した処理が行なわれている。

「下水道施設の計画・設計指針と解説」は過去10年毎ぐらいに技術開発等の結果を反映して改定されている。そこで最初沈殿池の設計基準を昭和47年度版から4回分を調べたが、最初沈殿池の沈殿時間には変更がなく、水面積負荷が平成6年度版から分流式の水面積負荷は合流式より大きくなっている。即ち、SSなどの汚濁負荷削減量を小さくする傾向にあり、これは最初沈殿池が不必要とする途上にあるのだろうと推測している。

さて、窒素やリン除去のため嫌気好気法、嫌気・無酸素・好気法などを採用している実処理場ではどう対処しているのか。最初沈殿池に補助金を投入して建設したので壊すわけにはいかないので、多分、最初沈殿池を使用せずバイパス水路を設けて生下水を反応槽に直接流入させている場合、最初沈殿池を使用し、反応槽でBOD源が不足になった場合は沈殿汚泥を反応槽に投入する場合、又はメタノールを投入している場合等があるようだ。

この処理法の運転管理手法が確定されるまで上記の最初沈殿池を活用する運転管理手法は暫定的手法と位置づけ、下水中のBOD源を出来るだけ利用する経済的で的確な窒素やリンの生物学的同時除去である嫌気好気法、嫌気・無酸素・好気法等及び多段ステップ流入式嫌気・無酸素・好気法の運転管理手法の確立が早期に望まれる。

以上は水道公論H19.11月号の技術評論に掲載された大諏訪礼次郎氏の文です。
 
加筆修正: 
この原稿を日本水道新聞社に送付した後、日本下水道新聞の平成19年10月3日号の記事に、東京都北多摩二号水再生センターでろ過速度1600m/日の高速ろ過施設が本格稼動し、最初沈殿池跡地に設置したとあった。この水再生センターでは既に2段ステップ流入式嫌気・無酸素・好気法が採用されていて、生物学的窒素・リン同時除去が行われている。そうなると、最初沈殿池は反応に必要なBODを最初沈殿池で除去するのは矛盾するので使用停止にされているのだろうと類推した。その跡地の有効利用として高速ろ過施設が最初沈殿池に設けられたのである。合流式下水道の最初沈殿池のOFRは50m/日程度であり、この高速ろ過施設のOFRは1600m/日と非常に大きいので、単純に割算しても日最大汚水量の32倍量以上までろ過できる。しかし、通常は 3Qsh〜6Qsh程度であるので、日最大汚水量に対して4〜7倍程度もここで雨天時に処理できれば大幅な汚濁負荷量の削減が達成できるものと思う。

故に合流式下水道では特に雨天時に水質が希釈されるので、生物学的窒素・リン同時除去法を採用している浄化センターでは最初沈殿池は使用休止にして下水中のBODを有効に利用及び休止中の最初沈殿池の有効利用の2つの先例を東京都は技術開発の結果としてこの理論を実現したものであり、敬意を表したいと考える。

〔大諏訪礼次郎〕:これは小生のペンネームです。