逆MICS事業
 


平成19年度末下水道処理人口普及率は約72%、これに類似下水道と言う集落排水施設と浄化槽等に接続している人口を加算した汚水処理人口普及率は約84%となった。下水道未整備地域の下水道事業は人口密度が小さい市街区域や点在する集落地域であり、投資効果があがらない地域であるため、より一層効率的な事業化手法を検討せねばならない。

下水道処理人口普及率が低いワースト10を見ると、47番目の徳島県、それに続いて和歌山県、高知県、島根県、鹿児島県、香川県、大分県、三重県、佐賀県、愛媛県で、殆どが西日本の県である。この地域では類似下水道の集落排水施設や浄化槽整備が進み、立派なし尿処理施設が建設・維持されている。し尿処理施設の更新時に新しい処理法が導入され、下水処理場の高度処理法と同様な、またはそれ以上の処理施設が完備しているケースがある。たとえば、農業集落排水施設で膜分離活性汚泥法が、またし尿処理施設の高負荷脱窒・高度処理法にはUF膜分離プロセスが導入されている。

下水道未整備地域で下水道事業を経済的に促進するために、国土交通省では「下水道未普及解消クイックプロジェクト」を策定し、より経済的なコストで下水道整備する手法の模索と、それらの手法の社会実験が導入されている。
上記ワースト10の県の役場など町の中心部でも人口密度が小さく計画処理人口が少ないので下水道施設でなく農業集落排水施設で整備されている。公共下水道や類似下水道施設も含めて、それらの計画処理能力は5000m3/日以下で、人口減少時代を迎えて10年や20年先の実処理規模は1000〜2000m3/日前後と推定され、まさに小規模下水道で非効率な下水道経営を強いられる。

集落排水施設の汚泥は濃縮後にバキューム車でし尿処理施設へ搬入され、浄化槽汚泥等と一緒に処理されるため、一般に汚泥処理施設が計画されていない。耳が痛い話であるが、「集落排水処理や浄化槽での汚水処理方式が国土交通省所管の下水道施設より安いので公共下水道は採用しない」と言う自治体がかなりある。三省協議の試算表にはバキューム車運搬費や屎尿処理施設の建設および維持管理費が加算され、税金での維持管理補填費も正確に加算されているのだろうか。安いとするなら理由は多々あるが、その1つの汚泥処理の集約化にあり、それにも注目したい。

一方、国土交通省所管の下水道施設では中小規模処理施設でも汚泥処理施設が設置され、又は汚泥処理施設がない浄化センターでは産業廃棄物業者に委託し、遠方まで搬出・処分するため等からコストが嵩んでいる。汚泥性状を確認して近傍のし尿処理施設で下水汚泥との共同処理するのもコスト縮減の1つの方法と考える。

国土交通省ではMICS事業を導入し、行政域を超えて周辺にある小規模な集落排水施設汚泥や特定環境保全下水処理施設からの汚泥をその地域の核になる下水処理場で共同処理する方策が採られている。建設費および維持管理費のコスト縮減をもくろんだ優れた方法である。特例かもしれないが、集落排水施設を廃止し、近傍で中心になる公共下水道施設で汚水・汚泥まで集約処理をする自治体の計画変更を耳にしたが、これは集落排水施設の欠点を解消すると共に、維持管理費など大きなコスト縮減効果をもたらす。

一方、大都市周辺の流域下水道規模と比較すると、地方の流域下水道規模は小さいが、個々に汚泥処理施設が完備している。流域下水道といえども汚泥処理施設の集約化を進めるべきである。スケールアップ効果による経済性と運搬費の増加との効果を検討し、単独公共下水道の汚泥も施設更新時期に合わせて、し尿処理施設や流域下水道施設に搬入して脱水または焼却処理の共同化を検討するべきである。点在する水処理施設は小規模でも個々に建設されるのはやむを得ないが、汚泥処理施設は県単位で、又は地理的条件で県域を超えた広域化や集約化をもっと推し進めるべきである。日本の政令指定都市等の汚泥処理施設は計画当初から、または施設更新時期に汚泥を管路輸送方式で集約し、経済性を常に追求している。

さて、上記のような背景から下水道普及率が低い県ではし尿処理施設が完備しているので、これらを中心にした「逆MICS事業」を検討することを提案したい。小規模下水処理施設では汚泥処理施設を当初から計画せず、集落排水施設のように濃縮汚泥をバキューム車等の手段でし尿処理施設に搬入し共同処理すべきで、共同処理することは建設費や維持管理費を低減でき、下水道使用料も低減できる有効な手法である。

下水道法や廃棄物の処理及び清掃に関する法律等は大都会での現状を反映して構成され、一般廃棄物と産業廃棄物の区別が歴然としている。人口密度が低く、大きな産業や工場がない下水道未整備地域では公共下水道の汚泥と集落排水や浄化槽汚泥には環境に悪影響を与える有害物質はほとんど含まれていないか、含まれていても微量で、両者には相違はないと考える。最近、下水汚泥と浄化槽汚泥等が共同処理されている自治体があることを偶然に発見した。地方の小規模下水処理施設ではコンポストが製造され、また、ある屎尿処理場は業務用生ゴミも受け入れ、汚泥からコンポストを製造し農業利用している。この点からも共同処理は問題がないものと考える。

法律では下水汚泥は産業廃棄物、し尿などは一般廃棄物として取り扱われているので、その共同処理は法の壁が高く、下水道側からの公表がされていない、または隠蔽したがる雰囲気がある。少子・高齢化、事業予算枠の維持・確保の困難性、全てが右肩下がりの時代、さらに不景気が長期化する時代において、経済的・効率的に下水道を普及させるため、または既存施設の改築更新には現状に適合させるため関連法の改正、柔軟な対応・運用を図るべきと考える。このためには国土交通省、環境省、農林水産省の3省協議が更に必要で、時間が必要かもしれないが是非とも効率的な下水道運営のために、暗に了解済みなことかも知れないが「逆MICS事業」の導入・公表・積極的な指導に前向きな協議を望みたい。

(水道公論2009年1月号に記載済み)