21世紀水倶楽部は、昨年9月に誕生して、ほぼ1年が経とうとしている。当初、会員は下水道関係者だけであったが、その後、河川関係者、上水道関係者が加わって「水倶楽部」に相応しい陣容になりつつある。
21世紀水倶楽部の目的とするところは、次のようなものである。
@上下水道事業等の正しい姿を世の中へ伝えること。
A世の中の声を汲み上げ事業に反映させること。
B幅広く環境問題に関心を持ち真理を追究すること。
C自己実現の場を提供すること。
1.@上下水道事業等の正しい姿を世の中へ伝えること、について
公共事業費の削減が毎年のように繰り返され、事業費はピーク時の半分になりつつある。環境対策の重要な柱である下水道事業も例外ではなく大幅な減少が続いている。重点配分という建前にもかかわらず、どの公共事業も一律削減という悪習から脱することができない状況が続いている。さらに、大都会に住む有識者からは、「下水道整備はほぼ完成した。残りの小規模町村は浄化槽で整備すればよい。」という間違った認識に基づいた声が出でいる。
このような状況の中で、黙して反論せずでは、下水道事業の将来はない。公共事業の中で何が最優先なのか。環境対策事業の優先順位はどうなのか。或いは、5万人未満の町村の35%が下水道事業未着手(約1000町村)であるにもかかわらず完成したといえるのか。下水道事業費はもう要らないのか。
このような悪条件が、悪い時期に下水道事業の前に立ち塞がっているが、これを乗り越えていくためには、官側担当者のみの努力だけではなく、一般市民の支援が不可欠である。そのためには、一般市民に対していろいろな情報を開示し下水道事業に対する理解を深めることによって、その支援をバックに事業を推進する以外にはない。単なる情報開示ではなく、専門的知識を易しく正しく伝えることが肝要である。
21世紀水倶楽部は、一般市民への普及啓発活動を通じて、事業の正しい姿を伝え、正しい理解を得ることによって下水道事業の促進を図るとともに、特に、小規模町村に対しては、一般的な普及啓発活動ばかりではなく、事業執行の支援も行うこととしている。
2.A世の中の声を汲み上げ事業に反映させること、について
従来の下水道事業の執行に当たっては、詳しい情報の開示は、不要な軋轢を避けるという観点から、行わなかったことが多い。しかしながら、昨今の公共事業では、市民の協力なくしては、事業は成立しないことが多くなった。したがって、公共事業は官民の協働という形のみが円滑な事業執行を期待できることになる。そのためには、市民の声を出来るだけ多く汲み上げ、これを事業に反映させることが必要である。官が民の声を汲み上げることが出来ないわけではないが、従前からの上下関係から、フランクな意見交換や本音を聞き出すことは、容易ではない。NPOが専門的知識を有しながら、第三者として利害関係がない立場を活用しつつ、官の本音と建前を調整しながら、民の本音とエゴを見極め、民の支援を引き出し、官民の仲介をするのがNPOの役割である。
廃棄物処理場建設などでは、NPOが官民協働を支援した例は多いが、21世紀水倶楽部は、水の世界でも、その知識と経験を生かし、官民協働を支援するものとしている。
3.B幅広く環境問題に関心を持ち真理を追究すること、について
水に関する環境問題だけではなく、廃棄物処理、大気汚染防止などいろいろな環境問題に関心を持ち、調査研究することにしている。
環境問題は、水に限らず、基本的な考え方は共通している。いろいろな観点から水環境問題を総合的に考えることが必要である。
4.C自己実現の場を提供すること、について
長年培った知識と経験を有効活用することは、社会的に有益である。今後も自由時間を持った経験者が増えつづけることから、これらの経験者の有益な意見を活用するためにも、その意見発表の場を提供し、気軽に意見開示が出来る機会を用意するものである。
現役時代には、その立場上、個人の意見を言えずもどかしい想いをしたことも多いと思われるが、現在の自由な立場から、発言したい人も多いと思われる。これはまた、不足していた官側の情報開示の一助にもなり、副次的な効果も期待できる。
また、蓄積された技術と経験を活用して、社会貢献活動をしてみたいと思っている人達に、その自己実現の機会を提供することとしている。
5.協働について
NPOの「協働」の形態としては、自治体との協働と企業との協働が考えられる。自治体との協働により、下水道事業の実施段階で、市民との間に生じる諸問題の解決や公共サービスの改善に大きく貢献できるものと考えている。事業計画段階では、公共下水道か農業集落排水施設か合併浄化槽かというシステム選択の問題、終末処理場の位置選定の問題など、工事段階では工法選択の問題、騒音振動の問題、商店街の営業妨害、交通渋滞など、維持管理段階では、管理業務の改善、民営化など多くの難問に遭遇しているのが現状である。これらの難問解決には、従来までの公共領域内で用いられていた手法では困難であり、市民原理、市場原理を導入することが避けられない。公共領域の市民化、公共サービスの民間開放は時の流れであり、NPOはその担い手であり、行政のパートナーである。また、もう1つの重要な社会的役割は、行政に対するアドボカシー活動、つまり、「提言」であり「牽制」である。これまでも行政は、「住民活動」から多くの批判や突き上げを受けてきた。対立や対決は新たな緊張関係を生み出し、それが新たな進歩を産み出した例は多い。批判だけにとどまらない「変革への提言」がNPOの大きな役割である。
企業との協働としては、公営事業の民営化における協働と社会貢献活動における協働が考えられる。工事の段階で市民の声を企業に届けることも重要であるが、事業の民営化において、企業の豊富な経営資源とNPOの社会性、革新性とが融合することで、新しい形態の事業運営が生まれるものと思われる。企業の社会貢献活動は、企業が利益追求だけでなく、「よき企業市民」として環境への配慮を求められている中で、無視することは出来ない。社会が企業に対して何を求めているか、どう応えるべきかなどNPOが企業の社会貢献活動を支援できることも多いものと思われる。
以上は下水道協会誌2004.9 特別企画「市民協働型下水道の推進」の中川様寄稿より転載・若干の加工をしたものです・・・HP管理者 |