(1)朝日新聞記事(H12.12.17) 鹿児島県志布志町の例から、次のような点を指摘している。 a.下水道の建設段階の町の負担は5.7%であるが、その後の起債の元利償還が重荷となっている。 b.下水道へ接続するための配管費用(私有地内)は個人負担となり、その出費(数十万円)に抵抗感がある。 c.人口の目減りと相まって、計画通りの下水道使用料の徴収が難しい。 d.下水道は計画から供用開始までの工事期間が長すぎる。その間、生活排水の垂れ流しが続く。 e.浄化槽は10日から2週間ほどで整備できるのがメリットだ。地元業者の育成につながる。 f.浄化槽は住民が保守点検を怠ると、機能が低下し汚水が十分に浄化されない恐れがある。 g.浄化槽は処理水を流す放流路を確保しなければならない。 h.浄化槽を設置する敷地(駐車スペース程度)を確保しなければならない。 i.浄化槽はリン除去などの高度処理が難しい。 志布志町は事業認可を受け、着工寸前であった下水道計画を休止し、下水道に代えて浄化槽の設置補助に取組み始めた。(2)弘友和夫氏(参議院議員・公明党水処理対策PT座長)の意見(同氏ホームページより) 西日本新聞のインタビューに答えて。 a.汚水処理にはどんな方法があるのか? b.どういうことか? c.人口の少ない郡部では下水道は不向きだと。 d.費用面だけではなく、水をきれいにする処理能力なども考慮する必要があるが。 e.そんないいものが予算面でなぜ冷遇されるのか?
これに対する下水道推進論としては、
(1)佐々木誠造氏(青森市長)の意見(朝日新聞掲載H14.11.29) a.下水道事業は多くの費用と時間を要するが、そうした経済性の観点からのみで議論すべき問題ではない。 b.合併浄化槽は「安くて早い」かもしれないが、住民の参加がバラバラになり、地域全体の汚水対策が遅れる例がみられる。 設置費用が個人負担で、1世帯当り百数十万円かかることもあって、経済的余裕と環境保全への意識のある人に参加が限られがちだ。 c.浄化槽の維持管理は民間が行う。定期的な点検はあるが、実施率が低い。老朽化対策上の問題も指摘されている。 d.公共下水道は対象地域の住民が一定期間内に接続する義務があり、事業の進展と共に整備が進む。 e.下水道の汚水は処理場で集中処理するため、浄化槽よりも効率がよい。 f.下水道事業は単なる汚水処理にとどまらず、公共用水域の汚濁負荷の軽減や水質保全に活用・貢献できる。 g.下水道は多面的な機能を有する。雨水処理による水害防止、雪対策では処理水を利用した融雪溝など。
芦刈町(佐賀県)では、町内全世帯を対象に実施したアンケート調査で、52%の世帯が下水道方式を選択した。事業費、個人負担、維持管理費などを説明した上で、どの方式を選ぶか尋ねたアンケート調査の結果は、下水道方式52%、浄化槽方式20%、不要17%であった。
次に、下水道と合併浄化槽をめぐる訴訟について概観してみよう。次のような案件がある。
いずれも下水道と合併浄化槽との経済性を比較して、下水道計画の是非を問う訴訟である。 葉山町のケースでは、公共下水道の優位性を認め、同町の公共下水道計画に正当性があるとの判断が下された。この訴訟は、公共下水道で整備するより合併浄化槽を設置することが合理的だとして提訴していたもので、平成14年6月横浜地裁の一審判決では、原告らの請求が棄却されていた。平成15年東京高裁の判断も、一審の判決を支持。合併浄化槽の利点は評価したものの、公共下水道の整備が及ばない地域での補完的な施設との位置付けとも解釈できると指摘している。設備の維持管理、放流水質の管理などの面でも、分散型処理施設である合併浄化槽より集中管理できる公共下水道に一定の優位性を認めている。 岐阜県における3件の場合、ほぼ同様の判決内容であり、下水道の持つ多様な機能が客観的に評価されたものになっている。北方町では、町長が「最小経費・最大効果の義務」を遵守したかが最大の争点となったが、判決では下水道での整備は合理的だと認め、原告の請求は全て棄却された。合併浄化槽の経済的な合理性は認めているが、雨水排除など下水道の有する機能や安定した水質管理体制が維持できることなど、合併浄化槽には果たし得ない幾つかの機能を有すると指摘している。また、住民に対する説明・合意も得られているとの判断を示した。 2.公共下水道と合併浄化槽の比較 公共下水道か合併浄化槽かという論争において、いろいろな問題点がある。問題点を整理してみよう。 A)建設段階 a.公共下水道は建設費が高く、合併浄化槽は安い。 b.公共下水道は建設に時間がかかりすぎるが、合併浄化槽は短期間で出来る。 c.合併浄化槽は個人の経済力、環境保全に対する関心度などに左右され、整備時期がバラバラになる。 d.公共下水道の役割は多面性があり、経済性という観点からのみ論ずるべきではない。 e.人口5万人以下の市町村は合併浄化槽で整備すべきだ。 f.合併浄化槽の設置には、駐車スペース程度の敷地が必要であるが、その確保が難しい。 g.合併浄化槽処理水の放流先を確保することが難しい。 h.公共下水道の排水設備は個人負担であり、その費用が大きい。 B)維持管理段階 a.公共下水道は集中管理され、効率的である。処理費も安い。 b.合併浄化槽は個人管理のため、十分な管理が行われ難い。定期点検の実施率が低い。 c.合併浄化槽ではリン除去などの高度処理が難しい。 d.合併浄化槽は負荷変動に弱い。 e.合併浄化槽は汚泥処理施設が無いため、し尿処理場等に依存している。 次に、主な問題点について、検討してみよう。 (1)公共下水道は高く、合併浄化槽は安い。(経済性の比較)
経済性を比較する場合には、双方の条件を揃えるため、次の諸点を考慮して比較しなければならない。 a.複合機能を持つ公共下水道と単機能である合併浄化槽を単純に比較しては、不公平となる。 b.耐用年数は、公共下水道が総体的に長く、合併浄化槽は短い点も考慮しなければならない。 c.公共下水道には、工場、商店などの事業所排水、公共施設からの汚水が含まれるので、これを除く。 d.公共下水道の公共用水域の保全対策、雨水対策に関する費用を除く。 建設、厚生、農林水産の三省は、平成12年10月、「汚水処理施設に関する統一的な経済比較をするための基礎数値」について合意し、各都道府県に通知した。これを参考とし汚水処理施設構想を見直すよう求めている。 (参考資料) a.経済比較資料
(2)公共下水道は建設期間が長く、合併浄化槽は短い。(工事期間の比較) 公共下水道は人口、面積などの規模にもよるが、小都市でも供用開始までに3〜5年、第1期事業で7〜10年を要している。特に第1期事業は先行投資部分があって、事業量、事業費が大きくなり勝ちである。これを無理して短縮すると起債償還のピークが高くなり、財政圧迫となる。 (3)公共下水道と合併浄化槽の役割分担について 国土交通省、農林水産省、環境省は、それぞれの対象区域を次のように区分している。 公共下水道……市街地の中心部(都市計画区域内)で下水道法の認可区域 合併浄化槽……下水道法の認可区域以外の区域 農村集落排水…農業振興地域内の農業集落 この基準は、原則論である。したがって、実際の計画策定に際して、この基準をどう適用するかが問題となる。 (4)公共下水道は河海などの公共用水域の水質保全という役割も果たしている。
(5)合併浄化槽の敷地の確保が難しい。 合併浄化槽を設置するための敷地として、駐車スペース程度の面積が必要である。敷地に余裕がある地域であれば問題はないが、家屋が接近している地域では、敷地の確保が難しい。 (合併浄化槽のみでの普及が困難となった例) (6) 合併浄化槽処理水の放流先の確保が難しい。受け入れ先の保証がない。 住宅の近辺にある道路側溝、水路などに処理水を放流するケースが多いが、道路管理者や水路管理者の許可を得ることは容易ではない。受け入れ先の固有水量が少ない上に、処理水の水質はBOD、リン含有量が高いなどのため、側溝から晴天時に悪臭が発生し臭う、農用地にリン成分が流入するなどの理由で拒否されるケースが起きている。 (7)合併浄化槽は 汚泥処理施設を持たない。
汚水の処理を行なえば、必ず汚泥が発生するが、汚泥処理は厄介で費用がかかる。その処理施設が無いということは、浄化槽は完結した処理施設とは言えない。 (8)維持管理状況 合併浄化槽の最大の問題点は、維持管理である。 A)処理水質 汚水処理施設連携整備事業として認定された汚水処理施設で調査した結果(平成20年)は、次のとおりである。 BOD(mg/l) 基準値(mg/l) 下水道 1.2〜2.7 15 以下 合併浄化槽 1.0〜58 20 以下 B)処理水の定期検査(第11条) 回数 検査項目 実施率 下水道 月2回 40項以上 100% 浄化槽 年1回 5項目 25.7%(平成19年) 定期検査は、浄化槽が所期の目的を発揮していることを検査するものであるが、実施率の低さは大きな問題点である。この原因は、維持管理を個人に任せていることにあることは明白である。 下水道 地方公共団体 専任担当者(熟練技術者) 浄化槽 個人 個人 浄化槽の管理を個人に任せているが、定められた管理を確実に遂行していないことは、実態調査にも現れている。浄化槽も適正な管理をしなければ本来の性能を発揮できないのは当然である。強制力が無く、罰則も無い現体制で、個人の自主管理に下水道と同レベルの管理を期待するのは無理というものであろう。 |